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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)113号 判決

原告 ソウサ テスココ ソシエダ アノニモ

右代表者 イサック エル シラー ウベルト デュラン シャステル

右訴訟代理人弁理士 松田喬

被告 特許庁長官吉田文毅

右指定代理人 川又澄雄

〈ほか一名〉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が、昭和六三年一月一四日、同庁昭和五六年審判第一六八〇三号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文第一、二項と同旨の判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五二年八月一七日、「スピルリナゲイトラー」の片仮名文字を横書きしてなり、指定商品を第三二類「加工藻類および他の加工食料品その他本類に属する商品」とする商標(以下「本願商標」という。)(別紙参照)について商標登録出願(昭和五二年商標登録願第五八六〇〇号)をし、その後昭和五六年二月七日付の手続補正書によって、指定商品を第三二類「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する加工藻類および他の加工食料品その他本類に属する商品」と補正したが、同年三月二五日、拒絶査定されたので、同年八月八日、これを不服として審判の請求をした。特許庁は、これを昭和五六年審判第一六八〇三号事件として審理した結果、昭和六三年一月一四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年五月一一日原告に送達された(出訴期間として九〇日付加。)。

二  本件審決理由の要点

1  本願商標の構成、その指定商品及び商標登録出願日は、前項記載のとおりである。

2  これに対し、原査定は、「本願商標は、商標中に藍藻類の一属の普通名詞「Spirulina」に通ずる「スピルリナ」の文字を有してなるので、これを指定商品中上記に照応する商品以外の商品について使用するときは、該商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるものと認める。したがって、本願商標は、商標法第四条第一項第一六号の規定に該当する。」として、本願を拒絶した。

3  そこで判断するに、本願商標構成中の「スピルリナ」の文字は、藻類のなかの藍藻類に属する植物の名称を表すものとして一般的に使用されているものであり、該「スピルリナ」は、蛋白質の含有量が多く、消化率も高いものであって、乾燥あるいは粉末化し、これを加工したり、蛋白質強化食品として麺類等に混入したりして食するものであることは、たとえば、医歯薬出版株式会社発行の「スピルリナ 新しい食糧」、広済堂出版発行の「スピルリナの秘密」等により認め得るところである。また、本願商標構成中の「ゲイトラー」の文字は、前記「スピルリナ 新しい食糧」によれば、アルスロスピラ属に分類される「スピルリナ」の種類を表すために一般的に使用されている「Geitler」に通じるものと認められる。してみると、本願商標は、指定商品中の「スピルリナを含有した商品」以外の加工藻類、加工食料品等について使用した場合、スピルリナを含有する商品であるかの如く商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認めざるを得ない。したがって、本願商標は、商標法第四条第一項第一六号に該当し、登録することができない。

三  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、本願商標に係る指定商品について誤認したうえ、次のような認定判断の誤りを犯した結果、指定商品中の「スピルリナを含有した商品」以外の加工藻類、加工食料品等について使用した場合にスピルリナを含有する商品であるかの如く商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとの誤った結論を導いたものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  本願商標に係る指定商品についての誤解(取消事由1)

本願商標の指定商品は、第三二類「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する加工藻類および他の加工食料品その他本類に属する商品」であるところ、右の「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する」なる表示は、これに続く「加工藻類および他の加工食料品その他本類に属する商品」なる商品表示の全部に冠されるものである。けだし、「加工藻類および他の加工食料品……」の表現における「および」の語は、動詞「及ぶ」の連用形たるが故に、その前後の名詞ないし文章相互をつなぐものであり、したがって、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する」との修飾語は、「および」の前の語である「加工藻類」と後の語「他の加工食料品その他本類に属する商品」を一括して修飾するからである。そして、「他の加工食料品」の後に句読点を置かずに、「その他本類に属する商品」と続けて表示していることに徴しても、「および」以下の表現が一括された関係にあるものであることは明らかである。したがって、本願商標に係る指定商品は、すべてスピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する商品であって、これを含まない商品は指定商品に属しない。この点、本件審決は、指定商品中の「スピルリナを含有した商品」以外の加工藻類、加工食料品等について使用した場合に、スピルリナを含有する商品であるかの如く商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある旨判断していることから、本願商標の指定商品中には、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有した商品」以外の商品、つまり右の粉末を含有しない加工食料品等も含まれるものとの誤った理解をしていることは明らかである。このように、本願商標の指定商品は、すべて「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する商品」であるから、本件審決がいうところの「商品の品質についての誤認」の生じる余地は全くないのである。

2  「スピルリナ」及び「ゲイトラー」の意義についての認定に誤り(取消事由2)

(一) 本件審決は、二つの書籍中の記載を引用して、「スピルリナ」の文字は、藻類のなかの藍藻類に属する植物の名称を表すものとして一般的に使用されているものであり、該「スピルリナ」は、蛋白質の含有量が多く、消化率も高いものであって、乾燥あるいは粉末化し、これを加工したり、蛋白質強化食品として麺類等に混入したりして食するものである旨認定しているが、右の認定は誤りである。なぜなら、引用された書籍にその趣旨の記載があるとしても、本件審決が指摘するような「藻のなかの藍藻類」は「アルカロイド」を含むために人間が日常生活において食用に供し得るようなものではないからである。飢餓などの異常事態においてはともかく、日常生活において無理に持続して食用に供すれば激しい嘔吐をもよおすものであるからである。もともと、「スピルリナ藻類」は顕微鏡でのみ見知し得る微小藻であり、藻類といっても半植物的、半動物的な「プランクトン」に外ならないのである(スピルリナ藻類は、濾過用生地をもって濾過採取しようとしても粘性が著しく、かつ忽ちに腐敗してしまうものである。)。近年、合成樹脂糸による織目、編目の極めて微小な生地類の出現によって所望の育成藻類(大きな藻類)の濾過が可能となったことと原告の開発に係る特殊な技術手段による「アルカロイド」の除去技術によってはじめて、このような「スピルリナ藻類」から「スピルリナゲイトラーの精製粉末」が生産されるに至ったものである。したがって、「スピルリナ藻類」と「スピルリナゲイトラーの精製粉末」とは、根本的に異なった物質もしくは物体であるといえるのである。なお、本件審決が引用する書籍は、いずれも、いわゆる雑記本であり、きわもの的に発行されたに過ぎず、その内容も信ずるに足るものではない。これらの書籍は本願出願当時には存在していなかったものであり、また本件審決時点においてもすでに社会生活上では消滅している状態にあったものであり、それらが販売されていた期間にあっても、一般社会生活上はこれを知り得る由のない程度のものであったというべきである。

(二) 本件審決は、「ゲイトラー」の文字は、前記「スピルリナ 新しい食糧」によれば、アルスロスピラ属に分類される「スピルリナ」の種類を表すために一般的に使用されている「Geitler」に通じるものと認められる旨認定しているが、この認定は誤りである。分類学の代表的なものとしては、リンネの分類学があるところ、それによれば、門、綱、目、科、属、種のごとく系統的に分類されることになるが、「ゲイトラー」なる表示は分類学上一般的に使用されているものではなく、分類学上、定着した分類のための表示ではない。本件審決が指摘する「藻類のなかの藍藻類に属する植物」についてはそこまで研究されていないのである。分類のための表示ないし分類学なるものは、分類し、あるいは区別しようとする者が、たかだか主観的に合理的な拠り所とするにすぎないものであって、その区別は学名、植物名、原料名とは本来無関係なものである。したがって、「ゲイトラー」の語はアルスロスピラ属に分類される「スピルリナ」の種類を表すために一般的に使用されているとした本件審決の右の認定は誤りというべきである。

3  本願商標を「スピルリナ」と「ゲイトラー」とに分解して判断した点の誤り(取消事由3)

本願商標は、「スピルリナゲイトラー」と一連に横書きされてなる構成であるのに、本件審決は、「スピルリナ」と「ゲイトラー」とに分解したうえで、各別の対象を措定し、それによって商標法上の判断をなしているが、一般に、商標は、単なる意識を基準としてその自他商品識別力の有無を判断すべきではなく、現実の取引の場における一般取引者、需要者の認識を基準にして判断すべきものであり、本願商標に接した一般取引者、需要者としては、本願商標を「スピルリナゲイトラー」と一連のものとして認識することは明らかである。したがって、「スピルリナ」と「ゲイトラー」とに分解したうえでなした本件審決の判断は誤りというべきである。

4  商品の品質について誤認を生じると判断した点の誤り(取消事由4)

「スピルリナ藻類」は勿論、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する」商品は、従来全く存在しなかったし、商標法施行令の別表第三二類に掲げられた商品で「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する」との表示をした商品は、日本国内で販売されたこともないのである。商標法において、「商品」というのは取引界において現実に実体的存在を有する商品をいうのである。現実に実体的存在のない物は、商標法上の商品ではなく、空想の商品である。空想上の商品について商標法にいう「商品の品質の誤認」が生じるいわれはない。メキシコ市にあるテスココ湖に繁殖するスピルリナ藻類の中から、原告が別種の態様をもつ藻を発見して、これを「スピルリナゲイトラー」と名付けたものであるから、世界的にみても、この名称は唯一のものである。このように、本願商標に係る指定商品と同一範囲に属する商品のうちに、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する」との表示を掲げた商品がもともと存在しない以上、一般取引者もしくは需要者において「商品の品質の誤認」が生じる余地はないのである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一、二の事実は認める。

二  同三の主張は争う。本件審決の認定及び判断は、正当であり、何ら違法の点はない。

三  被告の主張

1  取消事由1について

本願商標に係る指定商品の表示中の「その他本類に属する商品」なる表示は、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する加工藻および他の加工食料品」以外の商標法施行令で定める商品の区分第三二類に属するすべての商品を指すものと解されるべきである。なんとなれば、「その他本類に属する商品」なる表示は特許庁における実務上の便宜のためのものであって、具体的に表示された商品以外のその商品の区分に属する商品全部を指定する場合のものであるからである。したがって、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する」との表示は、「加工藻類および他の加工食料品」にのみ冠せられた修飾語というべきである。

2  取消事由2について

「スピルリナ」の語が商品(食品)の品質を表示するためのものとして使用されているものであることは、すでになされた判決(東京高等裁判所昭和五九年(行ケ)第四八号昭和六〇年一二月一七日言渡・最高裁判所昭和六二年(行ツ)第一二七号昭和六二年二月三日言渡)から明らかであり、この点に関する原告の主張は本件審決の判断に影響を及ぼすものではない。

3  取消事由3について

本願商標を構成する文字のうち、「ゲイトラー」の文字(語)それ自体は、特定の語義をもって知られているものとはいえないが、医歯薬出版株式会社発行の「スピルリナ 新しい食糧」(乙第二号証の一ないし三)によれば、「スピルリナ」は、「真正スピルリナ属」と「アルスロスピラ属」の二つに分けられ、「アルスロスピラ属」に属するものは、現在一三種があり、これらのうち、九種のものの表示の末尾に「Geitler」の文字が使用されていることが認められるところから、本件審決は、指定商品の表示との関係に照らして、本願商標の構成中の「ゲイトラー」の文字部分は前記「Geitler」の文字に通じるものとしてスピルリナの種類(アルスロスピラ属に属するスピルリナであること)を表したものと認定したにすぎない(前掲乙第二号証の一ないし三によれば、スピルリナの種類を表す語として「ゲイトラー」のほかに、「マキシマ」、「プラテンシス」、「イエンネリ」、「フラボリエンス」、「ラキシシマ」、「マイオール」等の語が「スピルリナ」の末尾に付されて使用されている。)。このように、本件審決は、本願商標を構成する文字のうち、「ゲイトラー」の文字部分は「スピルリナ」の種類を表したものと認めたものであり、本願商標を構成する文字のうち、一般的によく知られているのが前記種類を総称する「スピルリナ」の語であり、この「スピルリナ」の文字(語)から、一般取引者、需要者は本願商標に係る指定商品の原材料(品質)を表示するものと認識するところから、「スピルリナ」の文字を含む本願商標を指定商品中「スピルリナを含有しない加工藻類、加工食料品」について使用した場合、これに接する一般取引者、需要者をして、該商品が「スピルリナを含有する商品」であるかのごとく商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあると判断したものであるから、本件審決の右の判断には何ら誤りはない。

4  取消事由4について

原告は、「スピルリナゲイトラー精製粉末を含有する」との表示をした商品は、日本国内で販売されたこともないから、現実に実体的存在のない物は、商標法上の商品とはいえず、また、商標法にいう「商品の品質の誤認」が生じるわけはない旨主張するが、本件審決は、本願商標を指定商品中の「スピルリナ」を用いていない加工食料品に使用したならば、これに接する一般取引者、需要者に、該商品はあたかも「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有した商品」であるかのように商品の品質につき誤認を生じさせるおそれがあると判断したものであるから、品質誤認を生じさせるおそれがある以上、この点の本件審決の判断は正当であって何ら誤りはない。

第四証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一及び二(特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の主張する取消事由の存否について判断する。

1  取消事由2及び3について

《証拠省略》を総合すると、スピルリナは、スピルリナ科の藍藻類に属する藻の仲間であり、毒性がなく、古代より食用に供していた部族もあり、加工のうえ食用又は飼料とするのに適したもので高蛋白植物資源として注目されていること、スピルリナ科の藍藻は大きく二つの属、つまり真正スピルリナ属とアルスロスピラ属に分類され、真正スピルリナ属に属するものは現在二二種、またアルスロスピラ属に属するものは一三種あるが、アルスロスピラ属のものには、植物学者であるGeitlerの分類名を末尾にもつものが多いこと、スピルリナを食用に加工したものは蛋白価が高く、各種ビタミン類やミネラルなどの栄養成分が豊富であっていわゆる健康食品や自然食品として注目され、病気の治療や予防にも役立つものとして期待されているほか、養殖魚類の飼料として、特に錦鯉の色揚げ飼料として利用され、この方面の開発利用の余地も大きいこと並びにこのスピルリナはすでに乾燥させた粉末として我が国に輸入されているものであるうえに、昭和五三年七月には、スピルリナの粉末を原料とした健康食品が製造発売されていることが認められ(る。)《証拠判断省略》そして、《証拠省略》によれば、本願商標登録出願についての最終的な判断時としての本件審決時(商標法第四条第三項参照)である昭和六三年一月一四日ころにおいては、自然食品に対する関心の高まりと相まって、「スピルリナ」の語は、右にみたような健康食品ないし自然食品の一つとして注目されている藻類の仲間であり、前記認定のごとき栄養成分を含むことから、これを加工して自然食品の一つとして食用に供し得るものを意味することは、すでに我が国においても知られていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると、本願商標の構成のうち「ゲイトラー」のもつ具体的な意義が一般に理解されていないとしても、これに先立つ「スピルリナ」を原材料としたものが右のような性状品質を有する健康食品の一つとして知られている以上、一般需要者が、「スピルリナゲイトラー」なる商標を付した加工食料品に接するときには、これが「スピルリナ」の種類に属する原材料を加工ないし含有した品質を有する商品であると容易に認識し得るものと認められる。したがって、本件審決が、「スピルリナ」の文字は、スピルリナとよばれる藍藻類を加工して食用に供するものを意味するものとして一般に使用されているとした認定に誤りはない。

また、本願商標の構成のうち「ゲイトラー」の部分が前記認定のごとき具体的な意義を有することが一般需要者に知られていないとしても、「スピルリナ」の語が健康食品の一つとして知られているのであるから、本願商標は、全体として商品の特性を表示する記述的商標と認めることができる。そうであれば、一般需要者が「スピルリナゲイトラー」を付した商品に接した場合、これを「スピルリナ」の種類に属する藍藻類を加工ないし含有した成分を有する商品であると認識するものということができるから、本件審決が、右と同じ検討をするに当たって、「スピルリナ」と「ゲイトラー」との部分とに分けてそれぞれの意義を認定したうえで、本願商標の構成を全体として評価判断したことに何ら誤りがない。

以上の認定及び説示に反する原告の主張は、これを裏付けるべき証拠もなく、採用することができない。よって、取消事由2及び3は理由がない。

2  取消事由1及び4について

ところで、本願商標に係る指定商品についてみるに、出願当初においては、指定商品を第三二類「加工藻類および他の加工食料品その他本類に属する商品」としていたものを、その後、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する加工藻および他の加工食料品その他本類に属する商品」と補正したことは、当事者間に争いのないところではあるが、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する加工藻類および他の加工食料品その他本類に属する商品」との表示のみからは冒頭の「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する」なる語は、

①  原告主張のように、「加工藻類」、「他の加工食料品」、「その他本類に属する商品」のすべての語に掛かるのか、

②  被告主張のように、「加工藻類」、「他の加工食料品」にまで掛かり、「その他本類に属する商品」には掛からないのか、

③  「加工藻類」にだけ掛かり、「他の加工食料品」、「その他本類に属する商品」には掛からないのか

三様の読み方が可能である。

すなわち、出願人は、前認定のように、近時健康食品等として注目されているスピルリナを含有する第三二類の食料品であることを示す標識として本願商標を出願したもので、これを含有しない第三二類の食料品についてまでこれを含有することを示す標識を付する意思を有しないものと推察すれば、①の読み方が可能であり、第三二類に属する食料品の中から「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する」ものとして「加工藻類」、「その他の加工食料品」が抽出されたとみれば、「その他本類に属する商品」とは、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する加工藻類および他の加工食料品以外のすべての第三二類の食料品」を指すものと解せられ、②の読み方が可能であり(この場合でも、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有しない加工藻類および他の加工食料品」が「その他本類に属する商品」に含まれるか否か二様の読み方が考えられ、本件審決は、「本願商標は、指定商品中の「スピルリナを含有する商品」以外の加工藻類、加工食料品等について使用した場合」(第三頁第一六行ないし第一八行)との記述からみて、前者の読み方をしていると解せられる。)、前記指定商品の表示を「および」で分断して読めば、③の読み方も可能である(この場合でも、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有しない加工藻類」が「他の加工食料品」又は「その他本願に属する商品」に含まれるか否か二様の読み方が考えられる。)。

そこで、右の②又は③の読み方をすれば、「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有しない商品」も本願商標の指定商品に含まれることになるから、かかる商品に本願商標を付して使用した場合には、一般需要者において、あたかもその商品に「スピルリナ」の種類に属する加工成分が含有されているかのように誤認するものと認められるから、本願商標は商標法第四条第一項第一六号に該当する。また、原告の主張するように、①の読み方をすれば、本願商標に係る指定商品はすべて「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する商品」であると理解できるとしても、本願商標が、別紙にみられるように品質及び原材料を「普通に用いられる方法で表示した標章」のみからなる記述的商標であることは明らかであるから、本願商標は商標法第三条第一項第三号に該当する。このように指定商品の表示をいかように読んでも、本願商標は商標登録を受けることができない。

本件審決も、「スピルリナ」や「ゲイトラー」の表示する意味を認定したうえで、本願商標が、「スピルリナを含有する商品」以外の商品に使用された場合に、商品の品質について誤認を生じる旨認定判断している説示の内容からみて、本願商標の構成を品質表示として把握していることは明らかであり、理由中には商標法第三条第一項第三号の規定がことさら掲記されていないけれども、本願商標を「スピルリナゲイトラーの精製粉末を含有する加工食料品」に使用されるときには、右の規定に該当する旨の判断を実質的にしているものと解される。そうであれば指定商品の範囲についての認定の誤りをいう原告の主張は、これをもって本件審決を取り消すべき事由とみることができないことも明白である。

なお、前記認定のごとくすでに我が国においてもスピルリナの粉末を含有した保健食品が製造販売されているのであって、また、それらの商品がいまだ一般需要者間に普及していないとしても、商標登録出願に係る商標が商標法第四条第一項第一六号にいう「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するというためには、その商標によってあらわされるような品質の商品が現実に製造、販売されていることを必要とするものではなく、一般需要者が、その商標を付した商品に接したとするならば、その商品の品質効能等の特性を誤認するおそれがあれば足るものというべきであり、この理は同法三条一項三号の適用の関係においても同様である。

よって、取消事由1及び4も理由がない。

三  以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤った違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。

よって、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、同第一五八条第二項の規定をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官川島貴志郎は、填補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松野嘉貞)

〈以下省略〉

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